prose-瀬戸の航跡(2)
2014年5月26日 エッセイ 昨日は窓際の薄黄色の陽をあびて文庫本をひろげていると、心地よい睡魔におそわれて意識をうしなってしまった。とくに疲れた自覚はないのにもかかわらず事務椅子に沈んで、しばらく午睡を貪った。バタンと、文庫本がフロアをたたいて澱んだ脳をもゆりおこし眼がさめた。
で、前にもどり拙云を綴る。
二人の孫娘は初めての船旅に大喜び、3歳の上孫は抑制のきいた性格で慎ましく謙虚にふまうが、えもいわれぬ笑顔の嬉しさをみせてくれ、1歳の下孫はその分沈着だが突然頭のてっぺんからの発声で自己主張し、これもえもいわれぬ笑顔で愛想してくれ、小旅行の家族をのせたフェリーはおだやかな海を進んだ。
最上階の甲板にでると冬なら首根っこがちじこまるほどの風は涼味を残して心地よく、だれもが両腕を広げてその大気のなかに溶けこもうと大きく息を吸うのである。ときたまの潮香はふくいくと膨張し拡張し細胞に散逸して飛ぶ鳥のおおらかさをもたらし、航跡の両側が泡立ち、まんなかのスクリュウの渦を一条の帯にして蒼い海に旅人はささやかな情感を放逸するのである。
オリーブの木は道路わきや畑地のいたるところに植えられて白い小さな花を無尽に咲かされている。枝を振ったら花弁がそこいらに舞い散るような儚さがある。地中海の、画でみる開放的明るさに和風の建築は異彩で淡い色彩のレンガづくりで濃色の屋根がよくマッチしていた。
醤油醸造の街でもある。
香ばしい匂いを染み込ませた空気があとからあとから流れ澱み脈うってまとわりつく街に潜りこみ、醤油はもとより醸造液にひたされた昆布製品を味わい賄い、おおかたを此処で費やし、べた凪の瀬戸に陽がかたむき金波銀波に照らされて土庄港に帰還した。
で、前にもどり拙云を綴る。
二人の孫娘は初めての船旅に大喜び、3歳の上孫は抑制のきいた性格で慎ましく謙虚にふまうが、えもいわれぬ笑顔の嬉しさをみせてくれ、1歳の下孫はその分沈着だが突然頭のてっぺんからの発声で自己主張し、これもえもいわれぬ笑顔で愛想してくれ、小旅行の家族をのせたフェリーはおだやかな海を進んだ。
最上階の甲板にでると冬なら首根っこがちじこまるほどの風は涼味を残して心地よく、だれもが両腕を広げてその大気のなかに溶けこもうと大きく息を吸うのである。ときたまの潮香はふくいくと膨張し拡張し細胞に散逸して飛ぶ鳥のおおらかさをもたらし、航跡の両側が泡立ち、まんなかのスクリュウの渦を一条の帯にして蒼い海に旅人はささやかな情感を放逸するのである。
オリーブの木は道路わきや畑地のいたるところに植えられて白い小さな花を無尽に咲かされている。枝を振ったら花弁がそこいらに舞い散るような儚さがある。地中海の、画でみる開放的明るさに和風の建築は異彩で淡い色彩のレンガづくりで濃色の屋根がよくマッチしていた。
醤油醸造の街でもある。
香ばしい匂いを染み込ませた空気があとからあとから流れ澱み脈うってまとわりつく街に潜りこみ、醤油はもとより醸造液にひたされた昆布製品を味わい賄い、おおかたを此処で費やし、べた凪の瀬戸に陽がかたむき金波銀波に照らされて土庄港に帰還した。
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